CINEMA UP 160~テーマ:食『ジュリー&ジュリア』『ありあまるごちそう』 |
「CINEMA UP」で紹介した映画についてのアレコレ。
食欲の秋…「食」をテーマにした作品をご紹介。
①『ジュリー&ジュリア』(2009・米)
すごく良かったです。1960年代に、アメリカ人のためのフランス料理のレシピ本を作った女性、ジュリア・チャイルド。そして、2000年代の会社員の女性、ジュリー・パウエル、それぞれ実在する人物。時代も違う、接点もない二人を主人公に描くという、とても珍しい作品だと思います。
まず素晴らしいのが、ジュリア・チャイルドを演じたメリル・ストリープです。いわゆる「ネアカ」、常にポジティブで明るい、元気でキュートなおばさま、という感じ。アメリカ人の彼女が、夫の仕事の都合でパリで暮らすようになるんですが、パリに赴任したばかりのときに、フランス料理店で、舌平目のムニエルを食べるシーンがあります。その美味しさに感激する様子は、少女のようでした。実在のジュリアは、身長が188センチあったそうなんですが、その身長の高さも含めて、メリル・ストリープが再現しています。素敵な女性だったんだろうな…と観ているだけでワクワクしますし、舌平目のムニエルも物凄くおいしそうで、この映画の「食」に対する期待も強まります。負けず嫌いなジュリアですが、その頑張り方もキュートで、料理教室に通い始めてから大量の玉ねぎを切るシーンなどは、本当にかわいいです。
一方、2000年代、思うように仕事ができず、ストレスのたまっているジュリーの姿は、他人事じゃないなぁ・・というリアルな感覚を与えます。それをエイミー・アダムスがそれを等身大に演じています。彼女は、ジュリアのレシピに挑戦することで、自分の殻を破ろうと考えていますが、実際、このジュリーはかなり料理がうまいです。そして、ジュリーの調理のシーンが多く登場します。たっぷりのバターで炒めるマッシュルームを鶏のクリーム煮に添えるようなシーンがありますが、秋ですから、キノコ料理の食べたい季節じゃないですか。缶詰のマッシュルームだったら(缶詰かよ、というところですが)私でもこういう料理作れるかも!と思える楽しい映画でもあります。
二人のシーンが行ったり来たりすることでテンポも良いですし、二人を支える二人の夫もとても素敵で、男女とも楽しめる作品だと思います。
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②『ありあまるごちそう』(2007・オーストリア)
ヨーロッパを舞台にした衝撃の「食」にまつわるドキュメンタリーです。
まず冒頭は、大量のパン…フランスパンとかカンパ―ニュと言われる丸い田舎パンとか…トラック何台分ものパンが廃棄されるシーンから始まります。すべて、まだ食べられるパンです。その一方で、ヨーロッパに向けて大量に小麦を輸出しているインドでは、食糧不足に苦しむ人がいるという現実があるということ。
また、小規模であっても自然に寄り添った形で漁業をし、質の良い魚を採ることを信条にしている漁業関係者もいれば、効率だけを考えてとにかく大型の船で大量に一気に魚を採ろうとする大きな会社もある。それが、海の生き物の体系に影響を与えている事例…。少量では儲けが出ないので、とにかく沢山売りたいという考えが、結果、食糧を命を無駄にしているという現実があります。
最も衝撃なのは、最後に、ヒヨコが鶏肉として出荷されるまでの映像です。「命をいただく」という概念とはかけ離れた飼育の仕方、自動化された加工方法…。インパクトのある映像で、繊細な方は鶏肉が食べたくなくなるかもしれない(私は大丈夫)、そういう意味で、声を大にして「お勧めのドキュメンタリーです」とは言いにくい。
でも「お勧め」と言えない自分というのは、この悲惨な食の問題から逃げたい、目を背けたいと思っているということです。せめて、食欲の秋、目の前にある食べ物は有難く頂くなければと思います。