2018年 06月 17日
CINEMA UP 142~テーマ:ロシア~『父、帰る』 |
FM PORTにて、毎週日曜午後7時~放送中の『中越グループPAN UP』内、
「CINEMA UP」で紹介した映画についてのアレコレ。
FIFAワールドカップ2018ロシア大会開催中という所から、テーマは「ロシア」。
①『父、帰る』(2003年 露)
不明点の多いまま進むストーリーでした。
例えば、父が12年ぶりに帰宅しますが、なぜ12年も留守にしたのか、父と母の夫婦生活はどうだったのか、そういうことは分かりません。
ただ、事情があって、父親は家を去り、母もそれをおそらく気に病んでいて、急に帰ってこられて困惑している、というのが推測されます。
父と兄弟は旅に出ますが、そのことは、母親が勧めたらしいことが会話から分かります。ただ、兄弟に感情移入をしたり、父親が子供たちに何を伝えたいのかを想像する上で、細かな設定や事情というのは必要なくて、むしろ、彼らのことが全く分からないからこそ、知ろうと耳を澄ませたり、「このお父さん何なんだろう」って考えたり、そういう不思議な時間でもありました。わかり易さが全てではないんだなぁと、その表現の世界に感じいることが出来ます。
お父さんの行動は横暴さがあって、たとえば、お兄ちゃんが財布を盗まれる、カツアゲされたような状況になったときに、すぐに助けずに、「財布を取り返してこい」と息子たちに言う。しかし、結局は、犯人を父自ら連れてきて、息子たちに仕返しをしろ(殴ってみろ)と迫ります。
また、例えば、テントを張らせてみて、「なんだ、そのテントの張り方は」と怒鳴ります。兄弟が約束の時間をすぎて戻ると、時計を持っていた兄を倒れるまでビンタします。そういう理不尽に驚きながらも、この絶対的な存在感が父親なのかという気持ちも残りました。
そんな父との時間を過ごした兄が、あるポイントを機に、人が変わったような変化を見せます。兄は元々はスキーボイスではありましたが、そのポイント以降、ドスがきいた声を響かせていて、耳を疑いました。
父親と兄弟の数日間は、彼らの一生を超えるほどの時間になる・・・という強烈な作品でした。
そのほか、CMを手掛けていたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の初映画作品と聞いて納得の、斬新な構図やアングルも素敵です。
そして、斜めに立っている木の電信柱の続く道とか、広い空、白い雲、海のような大きな湖。ロシアの普通の景色を感じることができます。
あと、これは私の勝手な偏見で、ロシアの方が聴いていたら怒られるかもしれないけれど、ふくよかなバストのウエイトレスさんが、白いシャツがスケスケで、ブラジャーがハッキリ見えているシーンなんか、大ざっぱなロシア感がありました。
②『終着駅トルストイ最後の旅』(2009年 英・独・露)
ロシアと言えばトルストイ!と名前は出てきても、私は『戦争と平和』も『アンナ・カレーリナ』も読んだことが無いですし、髭のおじいさんのビジュアルだけが、なんとなく思い起こされます。ただ、この作品のエンドロールで、実写映画のトルストイ本人や家族の様子が出てきて、その「髭のおじいさん」や家族の苦悩がそこにあったのか…と思うと、胸が痛みました。効果的なエンドロールです。
トルストイはお金も地位も持っている大作家ですが、晩年は自身の生活を簡素にし、権力を嫌い、精神的な世界や愛を突き詰めたいと考えています。そういう、夫の変化を望んでいなかった気の強い妻は、世間では「悪妻」と言われます。
夫が外で稼いで来て、妻は子育てで手一杯…という時代には円満に行っていたものが、夫が定年して子供が巣立ったあとの熟年夫婦…と単純に置き換えてしまうと、もしかしたら、この作品が「刺さる」人は多いかもしれません。
トルストイの妻・ソフィヤを、イギリスの大女優、ヘレン・ミレンが演じています。このコーナーでは、以前、元気なおじいちゃん・おばあちゃんというテーマの時に、ブルース・ウィルス主演の『RED』をご紹介したことがありましたが、引退した女性スパイをめちゃくちゃ美しく、かっこよく演じていて大好きになりました。
この妻・ソフィヤが、トルストイが家族に遺産を残さず、財産を国に譲るという遺言を作成するくだりで、彼女がパニックになる様子は、ヒステリーを自認する女性には、かなりのリアリティがあると思います。一方で、夫に甘えたがるソフィヤの様子などは女の子のようで、彼女が「悪妻」なのか「夫を愛する女性」なのか、捉え方は様々かと思います。ソフィヤ役・ヘレン・ミレンのレースや美しい布をふんだんに使った衣装が素敵で、当時のロシアのお金持ちの暮らしを感じることができます。
一言で言えば「夫婦のことは夫婦にしか分からない」という作品です。
「CINEMA UP」で紹介した映画についてのアレコレ。
FIFAワールドカップ2018ロシア大会開催中という所から、テーマは「ロシア」。
①『父、帰る』(2003年 露)
不明点の多いまま進むストーリーでした。
例えば、父が12年ぶりに帰宅しますが、なぜ12年も留守にしたのか、父と母の夫婦生活はどうだったのか、そういうことは分かりません。
ただ、事情があって、父親は家を去り、母もそれをおそらく気に病んでいて、急に帰ってこられて困惑している、というのが推測されます。
父と兄弟は旅に出ますが、そのことは、母親が勧めたらしいことが会話から分かります。ただ、兄弟に感情移入をしたり、父親が子供たちに何を伝えたいのかを想像する上で、細かな設定や事情というのは必要なくて、むしろ、彼らのことが全く分からないからこそ、知ろうと耳を澄ませたり、「このお父さん何なんだろう」って考えたり、そういう不思議な時間でもありました。わかり易さが全てではないんだなぁと、その表現の世界に感じいることが出来ます。
お父さんの行動は横暴さがあって、たとえば、お兄ちゃんが財布を盗まれる、カツアゲされたような状況になったときに、すぐに助けずに、「財布を取り返してこい」と息子たちに言う。しかし、結局は、犯人を父自ら連れてきて、息子たちに仕返しをしろ(殴ってみろ)と迫ります。
また、例えば、テントを張らせてみて、「なんだ、そのテントの張り方は」と怒鳴ります。兄弟が約束の時間をすぎて戻ると、時計を持っていた兄を倒れるまでビンタします。そういう理不尽に驚きながらも、この絶対的な存在感が父親なのかという気持ちも残りました。
そんな父との時間を過ごした兄が、あるポイントを機に、人が変わったような変化を見せます。兄は元々はスキーボイスではありましたが、そのポイント以降、ドスがきいた声を響かせていて、耳を疑いました。
父親と兄弟の数日間は、彼らの一生を超えるほどの時間になる・・・という強烈な作品でした。
そのほか、CMを手掛けていたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の初映画作品と聞いて納得の、斬新な構図やアングルも素敵です。
そして、斜めに立っている木の電信柱の続く道とか、広い空、白い雲、海のような大きな湖。ロシアの普通の景色を感じることができます。
あと、これは私の勝手な偏見で、ロシアの方が聴いていたら怒られるかもしれないけれど、ふくよかなバストのウエイトレスさんが、白いシャツがスケスケで、ブラジャーがハッキリ見えているシーンなんか、大ざっぱなロシア感がありました。
②『終着駅トルストイ最後の旅』(2009年 英・独・露)
ロシアと言えばトルストイ!と名前は出てきても、私は『戦争と平和』も『アンナ・カレーリナ』も読んだことが無いですし、髭のおじいさんのビジュアルだけが、なんとなく思い起こされます。ただ、この作品のエンドロールで、実写映画のトルストイ本人や家族の様子が出てきて、その「髭のおじいさん」や家族の苦悩がそこにあったのか…と思うと、胸が痛みました。効果的なエンドロールです。
トルストイはお金も地位も持っている大作家ですが、晩年は自身の生活を簡素にし、権力を嫌い、精神的な世界や愛を突き詰めたいと考えています。そういう、夫の変化を望んでいなかった気の強い妻は、世間では「悪妻」と言われます。
夫が外で稼いで来て、妻は子育てで手一杯…という時代には円満に行っていたものが、夫が定年して子供が巣立ったあとの熟年夫婦…と単純に置き換えてしまうと、もしかしたら、この作品が「刺さる」人は多いかもしれません。
トルストイの妻・ソフィヤを、イギリスの大女優、ヘレン・ミレンが演じています。このコーナーでは、以前、元気なおじいちゃん・おばあちゃんというテーマの時に、ブルース・ウィルス主演の『RED』をご紹介したことがありましたが、引退した女性スパイをめちゃくちゃ美しく、かっこよく演じていて大好きになりました。
この妻・ソフィヤが、トルストイが家族に遺産を残さず、財産を国に譲るという遺言を作成するくだりで、彼女がパニックになる様子は、ヒステリーを自認する女性には、かなりのリアリティがあると思います。一方で、夫に甘えたがるソフィヤの様子などは女の子のようで、彼女が「悪妻」なのか「夫を愛する女性」なのか、捉え方は様々かと思います。ソフィヤ役・ヘレン・ミレンのレースや美しい布をふんだんに使った衣装が素敵で、当時のロシアのお金持ちの暮らしを感じることができます。
一言で言えば「夫婦のことは夫婦にしか分からない」という作品です。
by michi1223kuma
| 2018-06-17 20:00
| 映画